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福岡高等裁判所 昭和59年(う)706号 判決

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

当審における未決勾留日数中二四〇日を被告人黒木清正に対する原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人大場英世及び弁護人加野靖典(被告人大場英世関係)並びに弁護人石川四男美(被告人黒木清正関係)が差し出した各控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官小浦英俊が差し出した答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のとおり判断する。

加野弁護人の控訴趣意第一点の一及び石川弁護人の控訴趣意第一点(いずれも原判示第一の事実に関する事実誤認)並びに大場被告人の控訴趣意中原判示第一の事実に関する事実誤認の論旨について。

大場被告人及び加野弁護人の所論は要するに、原判示第一の事実に関し、被告人大場には橋口殺害の認識がなく、この点につき被告人黒木との間に共謀の事実もない。同被告人は単に殺人の機会を被告人黒木に与えただけであるから、殺人未遂の幇助にとどまるものである。また、覚せい剤の取得については、被告人大場には詐欺(もしくは横領)の認識があつたにすぎない。次に、石川弁護人の所論は要するに、右第一の事実に関し、被告人黒木には覚せい剤強取の犯意はなく、この点につき被告人大場との間に共謀の事実もない。本件殺害は覚せい剤奪取の手段となつておらず、両者は無関係に敢行されたものである。また、被告人黒木は右覚せい剤の分け前にもあづかつていない。したがつて、同被告人について強盗の成立する余地はないものである。以上のとおり、原判決は事実を誤認したものであつて、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れないというに帰する。

しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第一の事実は優に認められ、所論の如き事実誤認を見出すことはできない。すなわち、

右証拠によれば、(1)昭和五八年九月三日ころ暴力団浜田会の浜田組組長古賀稔及び鳥巣組組長鳥巣元広が暴力団石川一家の組員からけん銃で射たれて負傷したが、これが発端となつて両暴力団は抗争状態に入り、その後も石川一家の組員によつて浜田会の組員が襲われたり浜田会事務所に火炎びんが投げ込まれるといつた事件が起つた。(2)石川一家の山口組組長山口侃はこの機会に浜田会を徹底的に痛めつけようと企て、知人である被告人大場に対し浜田会で知つている者がいるかと尋ねたのに対し、かつて暴力団に身を置いたことのある同被告人が、橋口勲を知つている旨答えたので、二人で話し合い覚せい剤の取引という口実で橋口をおびき出すことにした。(3)そこで、被告人大場は橋口に電話をかけ、覚せい剤を一キログラム入手いたい旨申し込むと、橋口がこれを了承したので、同被告人はその旨山口に伝えたところ、山口は「浜田会でいま力を持つているのは橋口だ。橋口をやれば向うの力も無くなるし、覚せい剤を取れば向うの資金源も無くなる。」と答えたので、同被告人は、橋口を殺害して覚せい剤を奪おうとしていることを確知するとともにこれに加担することにし、奪取する覚せい剤は多い方がいいと考えて、橋口に対し電話で「買い手が二人いるので二キログラム欲しい。」旨申し込むと、橋口は「とりあえず手許にある一・四キログラムをやる。」と答えた。(4)被告人大場は、覚せい剤の仲介人を装つて橋口に会うことにしていたが、同年一一月九日夜冨田勝が同被告人方を訪れたので、同人も仲間に入れることにし、翌一〇日二人は新幹線で名古屋駅から博多駅へ赴いた。車中、同被告人は冨田に対し「浜田会の人間を覚せい剤の取引ということで呼び出す。そのあと石川一家の人間が相手を殺ることになつている。」旨打ち明けた。同駅で二人は前記山口並びにその舎弟分で石川一家岡組組長岡万猛留及びその配下である被告人黒木と合流した。被告人黒木は、これより先、熊本刑務所で服役中に右岡と知り合い、出所後その若い者となつたものであるところ、浜田会と石川一家が抗争中であることを知り、岡組で出所祝いをしてもらつたりしたため組員として手柄を立てようと考え、右岡らに加担して橋口殺害を決意したものである。(5)被告人大場、同黒木及び前記山口、岡、冨田の五名は焼肉店で食事をしたが、山口が被告人大場に対し「今度はこれ(被告人黒木)がやるから。」と述べた。同店を出て右五名は車に乗つたが、被告人大場が「どげな風してやりよるな。」と尋ねると、山口は「ドスで殺ろうと思うとる。」と答えたが、同被告人が「けん銃の方がよかないか。」と提案したので、車を佐賀まで走らせけん銃を入手して再び福岡に引き返したが、右けん銃は被告人黒木が受け取つた。車中で、被告人大場は冨田や被告人黒木を前にして山口に向い「覚せい剤を取つたら分け前やるもんな。」と言うと、山口は「そげなもんはいらん。相手がやられりやうちはいいんだから。相手がおらんごとになれば組はつぶれるようなもんやから。」と答え、被告人大場は「なら俺が貰つとく。」と述べた。同被告人は、被告人黒木に対し「お前は人を殺したことがあるか。」、「チヤカ(けん銃)をはじいたことがあるか。」などと問い、被告人黒木がいずれも「ない。」と答えると、被告人大場は「こんなんで大丈夫か。俺の方が馴れているから俺がやつてもいいぞ。」と言つたが、被告人黒木は「大丈夫です。」と答えて同被告人が殺害の実行をすることを確認した。そこで、被告人大場は被告人黒木に対し「これが安全装置やから射つときはこれをこうしろ。」等とけん銃の使い方を説明し、更に、「浜田会の幹部をホテルに呼び出す。二部屋とつて、一つに浜田会の幹部を入れ、もう一つの部屋にはお前が隠れておれ。俺が相手の部屋へ行き暫く話をしたのちお前に合図するから俺と一緒についてこい。俺がドアを開けるからお前が部屋へ入つてチヤカをはじけ。俺はそのとき相手から物(覚せい剤)を取つて逃げる。」と被告人大場が考えた犯行の手順を説明し、被告人黒木はこれに同調し、本件犯行が橋口から覚せい剤を奪取するとともに同人を殺害するものであることを知りながらその決意を固めた。(6)その後、同被告人は博多駅で被告人黒木に対し「俺が相手の部屋で物を取りその部屋を出たあとお前の部屋へ行つて合図するから、そのあとお前は入れ替わりに相手の部屋へ行つて相手を殺れ。」と述べて、手順の一部修正を指示した。(7)被告人大場は松島ホテル三〇三号室に橋口を案内し、同人の持参した覚せい剤を見てその値段を尋ねたりしたあと、先方(買主)と話をしてくると言つて三〇九号室に行き、そこで待機している被告人黒木や冨田と会つて再び三〇三号室に戻り、橋口に対し「先方は品物を受け取るまでは金はやれんと言うとる。」と告げると、橋口は「こつちも金を見らんでは渡されん。」と答えて暫くやりとりが続いたあと、橋口が譲歩して「なら、これをあんたに預けるわ。」と言いながら被告人大場に覚せい剤を渡したので、同被告人はこれを取つて冨田に渡し「一寸待つてて。」と言つて二人とも三〇三号室を出て三〇九号室に行き、被告人黒木に対し「行つてくれ。」と述べて三〇三号室へ行くよう指示し、冨田と二人で山口県小郡へ出発した。(8)被告人黒木は、被告人大場と入れ替わりに三〇三号室に入り至近距離から橋口めがけてけん銃の弾丸五発を発射したが、同人が防弾チヨツキを着ていたので、原判示第一の傷害を負わせたにとどまり殺害することができなかつた。(9)被告人大場と冨田は、小郡で前記覚せい剤中一三袋(約一・三キログラム)をやかんの中に隠し、一袋(約一〇〇グラム)だけ残しておいたところ、同被告人の仕打ちに不満を抱いた冨田は右一袋を持つて逃走した。その後被告人大場は右覚せい剤約一・三キログラムを密売したりして処分した。以上の事実が認められ、被告人両名の原審公判廷における各供述並びに各供述調書中右と相容れない部分はたやすく措信できない。

右事実によれば、被告人らは橋口の殺害及び覚せい剤奪取を企て、両被告人とも犯行現場に乗り込んで本件犯行に及んだことが明らかであつて、共謀による強盗殺人未遂に当ることは否定できないところである。

各所論は、被告人両名に共謀が存しないというのである。しかし、被告人大場は橋口の覚せい剤を取得することが主たる目的であり、被告人黒木は橋口を殺害することが主たる目的であつて、被告人大場が覚せい剤を手にし、被告人黒木がけん銃を発射し、かつ同被告人は覚せい剤の分け前にあづからなかつたとしても、右は各自が犯罪行為の一部をそれぞれ行なつたというにすぎず、まさに被告人両名は橋口殺害と覚せい剤奪取という強盗殺人を行なうため共同意思の下に一体となつて互いに他人の行為を利用し各自の意思を実行に移すことを相謀つて犯罪を実行したものに外ならないから、共謀共同正犯の成立は否定できず、被告人大場の所為につき殺人未遂幇助であるとの被告人大場及び加野弁護人の所論は採用できない(とくに、本件において被告人大場は自ら橋口殺害と覚せい剤の奪取の具体的方法を立案しているものであり、被告人黒木に対しけん銃の使用を勧め、その使用方法を伝授したり、あるいは自ら殺人を実行しようかと述べてみたり等し、現場においても被告人黒木に殺害実行の合図をしたものであつて、本件殺害行為に積極的に関与しているものである。)。なお、石川弁護人の所論は、橋口殺害が覚せい剤奪取の手段となつていないというのであるが、先に説示したとおり、橋口殺害と覚せい剤奪取は密接に結びつき一体となつて互いに手段目的の関係にあるものであるから、所論は採用するに由ない。

また、大場被告人及び加野弁護人の所論は、本件覚せい剤の取得をもつて強盗に当らず、詐欺(もしくは横領)にすぎないというのである。しかし、関係証拠上明らかなとおり、橋口は覚せい剤の売買のため現場(松島ホテル三〇三号室)で、被告人大場のいう買主との間に売買が成立すればこれに対し代金引換えに覚せい剤を渡す意図であるところ、前もつて覚せい剤を買主に見せて品物があることを確認させるとともにその品質や量を吟味させて値段の折り合いを図るなど覚せい剤密売の準備として、同被告人に本件覚せい剤を預けたにすぎないものであり、被告人大場も右三〇三号室のすぐ近くにある三〇九号室にいる買主に見せると称して預つたものであるうえ、同被告人の共同正犯である被告人黒木は、三〇九号室において被告人大場の指示を受けて直ちに三〇三号室に赴いて橋口に対し犯行に及んでいることに徴すると、被告人大場は相手方の意思に基づく財産的処分行為を介して財物の占有を取得したものとはいえず、同被告人は本件覚せい剤を橋口から奪取しようとした(本件は、自己の占有する目的物に対する行為ではないから、横領罪の成立する余地はない。)ものとみるのが相当である。そして、人を殺してその所持金品を奪取する行為が強盗殺人罪に当ることは疑いのないところであり、あらかじめ殺人と金品奪取の意図をもつて、殺人と奪取が同時に行われるときはもとより、これと同一視できる程度に日時場所がきわめて密着してなされた場合にも強盗殺人罪の成立を認めるのが相当である。このように解することは、強盗殺人(ないし強盗致死傷)罪が財産犯罪と殺傷犯罪のいわゆる結合犯であることや、法が事後強盗(この場合には、当初は窃盗という単純な奪取行為だけを意図したものが、財物窃取後にその取還を防ぎ又は逮捕を免れるなどのために暴行又は脅迫をなすのであり、これに比して、当初から金品奪取と殺害を意図して行なう場合は一層危険かつ悪質であることは明らかである。)の規定を設けてこれを強盗として扱うことにした趣旨にも合致するところである。本件の場合、もともと橋口を殺害して覚せい剤を奪取する計画であつたところ、後に計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後に橋口を殺害することにしたものの、殺害と奪取を同一機会に行なうことに変りはなく、右計画に従つて実行(被害者橋口が覚せい剤を預けてから狙撃されるまで時間的にもきわめて短く、かつ場所も全く動いていない)しているものであつて、右所為について強盗殺人未遂罪が成立するというべきである。

そうしてみれば、原判決の判示第一の事実認定に誤りはなく、その他記録を精査し当審における事実取り調べの結果(被告人両名の各供述中右事実と相容れない部分は措信しがたい)を参酌しても、所論の如き事実誤認を発見することはできない。論旨は理由がない。

加野弁護人の控訴趣意第一点の二(原判示第三の一の事実に関する事実誤認)及び被告人大場の控訴趣意中原判示第三の一の事実に関する事実誤認の論旨について。

所論は要するに、原判示第三の一の事実に関し、本件覚せい剤は被告人大場が他人から預かつていたもので、営利の目的はなかつた。原判決は事実を誤認したもので、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れないというのである。

しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第三の一の事実は優に認められ、被告人大場が営利目的で覚せい剤を所持したことは否定できない。すなわち、

右証拠によれば、(1)被告人大場はかねてより覚せい剤の密売をしていたものであるところ、昭和五七年一二月上旬ころ、四〇才ぐらいの氏名不詳の男から「このシヤブ(覚せい剤)は全然売れる代物じやない。よかつたら持つて行きない。」と言われて、本件覚せい剤を上皿天秤やビニール袋とともに無償で譲り受けた。(2)昭和五八年二月一〇日ころ、被告人大場は中島敏夫に対し「これはヤバイ(危い)ものやけど預つといてくれ。」と言つて右覚せい剤を預けたが、その数日後に右覚せい剤の量は約六〇〇グラムで質は劣悪な物であることが分つたものの、同被告人はこれを他人に売却するために中島方で秤を使つて一〇〇グラムずつ六袋に小分けした。(3)右中島は被告人大場の了解を得て右覚せい剤の中から約三〇グラムを一五万円で他に売却した。同被告人は右覚せい剤の質が悪いので密売するために良質の覚せい剤を少量混入して売り易くした。以上の事実が認められる。

右事実によれば、被告人大場が本件覚せい剤を営利目的で所持したことは否定できないところである。

してみれば、原判決の判示第三の一の事実認定に誤りはなく、その他記録を精査し当審における事実取り調べの結果を参酌しても、所論の如き事実誤認を発見することはできない。論旨は理由がない。

加野弁護人の控訴趣意第二点並びに石川弁護人の控訴趣意第二点(いずれも量刑不当)について。

よつて、所論にかんがみ本件記録、原審取り調べの証拠に当審における事実取り調べの結果を加えて被告人両名に対する原判決の科刑の当否をそれぞれ検討するに、

(一)  被告人黒木は、昭和五八年九月二五日熊本刑務所を出所したが、入所中に知り合つた暴力団石川一家の岡組組長岡万猛留の許に身を寄せ、暴力団の若い者になつたものであるところ、原判示第一の犯行は、岡組で出所祝いをしてもらつたりしたため組員として手柄を立てようと考え、右岡やその兄貴分である石川一家の山口組組長山口侃らが被告人大場と組んで、対立暴力団浜田会の実力者である橋口勲を覚せい剤の取引を装つて呼び出し殺害するという本件強盗殺人(未遂)の犯行を敢行するにあたり、いわゆる鉄砲玉としてこれに加担し、右橋口めがけてけん銃五発を発射したが、同人が防弾チヨツキを着用していたため加療約二か月間を要する傷害を負わせたにとどまり殺害の目的を遂げなかつたものであり、同第二の二、三の犯行は、その僅か一月後に、対立抗争中の前記浜田会の本部事務所前において、同会幹部(会長代行)土山春吉めがけて前同様所携のけん銃五発を発射して殺害しようとしたが、同人に加療約二五日間を要する傷害を負わせただけで未遂に終つたものであり、同第二の一の犯行は、右第二の二、三の犯行の前日に、クラブの従業員に因縁をつけて五〇万円を喝取しようとして未遂に終わつた事案であつて、右に見る如く、被告人黒木は刑務所を出所後僅か三か月の間に連続して二回、相手組員(二名)の殺害(未遂)を敢行したものであつて、その態様はいずれも至近距離からけん銃を連射したというものできわめて危険かつ悪質であり、また恐喝未遂も粗暴かつ執拗なものであるうえ、同被告人はこれまでにも強盗致傷、窃盗等の罪により四回に亘り懲役刑の処罰を受けたにも拘わらず又もや本件各犯行に及んだもので、その犯罪性向は看過できないものであること、かかる抗争事件が一般市民に与える不安感も軽視することができないこと等にかんがみるときは、本件第一、第二の一、二の各犯行がそれぞれ未遂に終わつていることや、同被告人の生い立ちに同情すべき点があること、その他所論の同被告人に利益な事情を十分に参酌しても、原判決の同被告人に対する刑の量定は相当であつて、これを不当とする事由を発見することができない。論旨は理由がない。

(二)  被告人大場は、かつて暴力団に所属し、また自らも暴力団大場組を結成したこともあつたが、その後暴力団を止めたものであるところ、原判示第一の犯行は、熊本刑務所在監中に知り合つた暴力団石川一家の山口組組長山口侃と話をするうち、同人に対して被告人大場が暴力団浜田会の橋口勲を知つている旨告げたため、対立抗争中の浜田会の潰滅を望む山口との間に、同会の実力者である橋口を殺害するとともにその所持する覚せい剤を奪取することを相謀り、殺害は石川一家の被告人黒木にやらせるが覚せい剤は被告人大場が全部取得することに決めたあと、被告人大場において綿密に犯行計画を練り巧みに橋口をホテルにおびき出し、被告人黒木に合図して橋口を狙撃させたばかりか、一・四キログラムもの覚せい剤を入手し、うち一・三キログラムを被告人大場において利得し密売等により処分したものであつて、右犯行はきわめて計画的であり、同被告人がその中心的役割を果たし、しかもその利得した覚せい剤も甚だ大量であり、殺害は未遂に終わつたとはいえ、犯行の態様は、かつて付合いのあつた橋口の信頼を利用しこれを裏切つたものであつて、同人の受けた精神的肉体的打撃は大きいものであること、同第三の犯行は覚せい剤の営利目的所持(約六〇〇グラム)及び単純所持(約〇・三六五グラム)であるところ、右営利目的所持にかかる覚せい剤は多量であつて、いうまでもなく覚せい剤の人体に及ぼす保健衛生上の危害その他の社会的害悪は計り知れないものが存すると同時に、密売覚せい剤の施用が蔓延し社会的にも憂慮すべき情況にあること、他面、同被告人はこれまでにも殺人、暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害等の罪により懲役刑(一回)又は罰金刑(二回)の処罰を受けたもので、本件犯行は右懲役刑の仮出獄期間中に敢行されたものであること等にかんがみるときは、共同被告人である黒木に対する科刑(懲役一八年)を考慮し、その他被告人大場に利益な事情を十分に参酌しても、原判決の同被告人に対する刑の量定は相当であつて、これを不当とする事由を発見することができない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条に則り本件各控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中二四〇日を被告人黒木清正に対する原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用について刑事訴訟法一八一条一項但書によりこれを被告人大場英世に負担させないこととして主文のとおり判決する。

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